北朝鮮の権力体制に劇的な変化は生じるのか
北朝鮮が2021年1月に開催した朝鮮労働党第8回大会で同党規約を改正したが、具体的な中身が最近になって明らかになった。とくに最高指導者である金正恩総書記の下に「第1書記」を新設するという内容が注目を集めている。これには、あまりにも権力が集中している金総書記の役割をほかの最高幹部に移譲すると同時に、朝鮮労働党という党としての体制管理を強めようとしているとの見方がある。ロシア人研究者で韓国・国民大学教授のアンドレイ・ランコフ氏に、今回の第1書記新設の狙いや金正恩体制の行方を聞いた。
重要会議で出てこなかった「第1書記」
――2021年1月の朝鮮労働党第8回党大会の際に、党規約が改正されたと発表されました。最近、その具体的な中身が明るみとなり、中でも「第1書記」が新設されたことが注目されています。しかし、6月中旬に行われた朝鮮労働党第8期第3回総会(全員会議)に関する北朝鮮側の報道では、「第1書記」は出てきませんでした。
今回の党総会で「第1書記」に関する報道がなかったことで、仮説が2つ立てられると思います。今回、北朝鮮当局は第1書記という職位が設置されたことを北朝鮮国内向けに大きく知らせることはありませんでした。もちろん、第1書記という職位は極めて敏感なものだからこそ、北朝鮮の国営メディアは慎重に接近する必要があったのです。
第1書記が任命されたのか、あるいはまだ空席なのか。最初の仮説は「北朝鮮はすでに第1書記を任命したが、この事実を公開しないことに決めた」というもの。北朝鮮の政治文化を考えると、第1書記がすでに任命されたとしても、この事実は少数の高級幹部のみが知っている状態であり、このような状態が今後数年間続くこともありえます。
そしてもう1つの仮説は、「北朝鮮は第1書記を設置したものの、これはあくまでも非常的な設置だと当局が考えている」というものです。これは金正恩総書記の健康状態によります。金総書記の健康状態を考慮し、現段階では第1書記を任命する必要がないと判断したのかもしれない。それならば、第1書記は「空席」となります。
北朝鮮の高級幹部の中でも、第1書記になりたい人は少ないと思います。なぜなら、この職位はとても危険な職位だからです。金総書記からすれば、第1書記となった幹部はいつでも陰謀者として見なされがちであり、そのぶん粛清される可能性もあります。金総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長が第1書記になったとしても、危険性は残るでしょう。でも、下馬評に挙がった趙勇元(チョ・ヨンウォン)党政治局常務委員や崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員会委員長など金一族ではない人が第1書記になれば、彼らは非常に危険な状況に直面する可能性が高まります。
この2つの仮説のうち、どちらが事実に近いのかはわかりません。ただ、私は2つめの仮説、つまりまだ第1書記を任命せずに空席にしている可能性がより高いと考えます。
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