ちょっとしたことで泣き続ける、他人が怒られていると自分のことのように動揺する——そんな「敏感っ子(HSC)」の長所を活かし、のびのびと育てていくにどうすればいいのでしょうか。5人のHSCのお子さんを育てる長岡真意子さんにお聞きしました。
この記事のポイント
うちの子は当てはまる?「敏感っ子(HSC)」の特徴とセルフチェックリスト
子ども番組の戦いの場面が怖くて毛布をかぶって泣く、バナナが折れてしまったら絶叫する。これらは、我が家の子どもたちの小さい頃のエピソードです。人一倍敏感な子どもたち5人を抱えて「どうしてこの子たちはこんなに育てにくいのだろう?」と悩む日々でした。しかし、同じような子どもを持つ家庭のコミュニティに参加したり、自分で文献を調べたりする中で「HSC(Highly Sensitive Child)=敏感っ子」という概念と出会い、子どもたちの見方が変わりました。
HSCという言葉の生みの親である心理学者エレイン・アーロン博士は、HSCの特徴として次の4つを挙げています。
- (1)情報を深く処理する(物事を深く考えたり、感じたりする傾向が強い)
- (2)刺激を過度に受けやすい(五感がとても敏感である)
- (3)感情移入しやすく、共感力がとても高い
- (4)わずかな刺激にも気づく
これらの特徴がすべて当てはまるお子さんは、敏感っ子(HSC)の可能性がとても高いと考えられます。「もしかしてうちの子はHSCかもしれない」と思われる方は、アーロン博士による次のチェックリストでチェックしてみてください。
セルフチェックリスト
- □びっくりしやすい。
- □服のタグや縫い目、肌触りなど、身に着けるものの不快さを訴える。
- □サプライズプレゼントなどをしても、おおむね喜ばない。
- □厳しく叱ったり罰を与えるよりも、穏やかに諭すほうが理解しやすい。
- □私の心を読んでいるように感じる。
- □年齢にしては難しく複雑な言葉を用いる。
- □微妙に異なる匂いに気がつく。
- □冴えたユーモアのセンスがある。
- □とても直観的に見える。
- □日中興奮すると、夜なかなか寝つけない。
- □大きな変化に対応できず、普段できていることもできないことがある。
- □服が濡れたり汚れたりすると、すぐに着替えたがる。
- □質問が多い。
- □完璧主義。
- □他者の悲しみや苦しみによく気がつく。
- □静かな遊びを好む。
- □深く考えさせられるような質問をする。
- □痛みに対してものすごく敏感。
- □うるさい場所が苦手。
- □何かを動かしたとか、人の見た目の変化など、ささいなことに気がつく。
- □高いところに登る前に安全かどうかよく確かめる。
- □見知らぬ人が傍にいないほうが、うまくパフォーマンスできる。
- □物事を深く感じる。
このうち13項目以上当てはまるならその子はおそらくHSCであり、13項目以下の場合でもとてもよく当てはまる項目が数個でもあれば、HSCである可能性が大きいとされています。アーロン博士によると、世の中の人の5人から6人に1人はHSCだと考えられています。
チェックリストの結果からお子さんがHSCだと考えられる場合は、これからお話する育て方のコツが参考になるかと思います。ただ、HSCは医療の現場ではまだ仮説段階の考え方で、診断がつくという性格のものではありません。もし、HSCの特徴を踏まえていろいろ試しても、日常生活の困難さが増したり、生きづらさが消えなかったりという場合は、心理の専門家にご相談いただいたほうがよいでしょう。
「敏感さ」「感受性の強さ」は天性のギフト
敏感っ子(HSC)を育てる親御さんは、「自分の育て方が悪いのでは?」と悩むこともあるでしょう。しかし、複数のお子さんを育てた方は経験的に気づいていらっしゃるように、子どもの性質には生まれつきのものがあり、同じように育ててもまったく違った性質に育ちます。人一倍敏感であることはその子の生まれつきの性質であり、親の育て方のせいではないというのが、HSCという考え方の根本にあります。
同時にHSCという考え方は、人一倍敏感であることは、その子どもの個性であり、よい面もあるということに光を当ててくれます。これまで敏感さに由来する臆病さなどは、ネガティブなイメージしかありませんでしたが、それは裏を返せば、感受性の豊かさ、他人への共感度の高さ、優しさといったポジティブな個性でもあるわけです。
我が家の子どもたちを振り返ってみると、長男は恐がりで泣き虫である反面、感受性が豊かで周りが気づかないことにも気づく子でした。ロボット工学が大好きで、ロボットの仕組みの細部にもこだわって打ち込み、ロボット工学の世界大会にも出場しました。他の子どもたちも、美術やサッカーなどそれぞれの分野で、丁寧さや完璧主義といった敏感っ子の特性を発揮しています。
このように、敏感っ子は強烈に物事に刺激を受けるので、辛さや苦しさを感じることも多いのですが、強烈な敏感さがその子どもの力をより高度に成長させることにもつながります。いわば、敏感さは天性のギフトとも言えるのです。次項から、敏感っ子がそうした長所を伸ばし自己肯定感を高めるためのポイントをお伝えします。
敏感っ子の長所を伸ばし、自己肯定感を高める関わり方とは?
1.子どもにネガティブなレッテルを貼らない
敏感っ子は親や周囲の言葉を人一倍敏感に吸収してしまいますから、ネガティブなレッテルを貼らないよう注意が必要です。例えば、「臆病」ではなく「思慮深い」、「泣き虫」ではなく「人の気持ちがわかって優しい」、そんなふうにその子の励みになるポジティブな言葉をかけてあげましょう。高校生の長女は優柔不断なことを自分でも気にしていたのですが、「いろいろな可能性を吟味して深く考えられるってことだよね」という私の言葉が自信につながり、徐々に決断できるようになっていきました。
2.他者の言葉や態度を「受け取る/受け取らない」は選択できると伝える
敏感っ子は他人の言葉や態度を強烈に感じるため、ささいなことでも深く傷ついてしまいます。しかし、他人にいやなことをされたり言われたりしても、それに自分が同意しないのであれば、それを受け取る必要はないのです。お子さんが他人の言葉や態度に傷ついていたときは、それを受け取らないという選択肢があることを繰り返し伝え、過度に自分自身を傷つけない考え方を培ってあげましょう。
3.達成までに細かく「足場」を設定し、長い時間をかける
大多数の子どもたちにとってはなんでもないことが、敏感っ子にとっては難しいということもあります。例えば、我が家の長男は水を怖がって水に顔をなかなかつけることができませんでした。しかし、水をぱしゃぱしゃすることから初めて、次は体を少し水につけてみる、といった具合に小さなステップを何段階にも設定し、少しずつ進めることで、小学校中学年には水泳チームに入るほど水が好きになりました。このように敏感っ子は時間はかかるけれど、ちゃんと到達できます。なかなかできなくても「無理なのだ」とあきらめてしまわず、小さな足場を細かく設定し、長い時間をかけて見守りましょう。
親が自分自身に思いやりを向けることも大事
敏感っ子を育てる親御さんは、周囲の人と子育てについて話がかみ合わないことも多く、周囲の無理解の中でストレスを抱えることもあるかと思います。まずは親自身が自分に思いやりを向け、ちょっとした自分の変化を認めて「よくやったね」と労ったり、自分をやさしくだきしめたりすることも大事です。
また、無理解に傷つけられるような環境には、なるべく行かないようにするというのも一つの方法です。敏感なお子さんの親の集まりなどに参加するのもいいでしょう。今はインターネットを通じて新しい関係を築くことも可能な時代です。気持ちをだれかと共有できる環境に身を置いて、自分を大切にできる人間関係を築いていってください。
まとめ & 実践 TIPS
HSCの特徴としては、(1)情報を深く処理する(2)刺激を過度に受けやすい(3)感情移入しやすく、共感力がとても高い(4)わずかな刺激にも気づく、の4つが挙げられます。敏感であることはその子の生まれつきの性質であり、親の育て方のせいではない、そして、敏感さには良い面もあるというのがHSCの考え方です。敏感っ子が長所を伸ばし自己肯定感を高めるためには、子どもにネガティブなレッテルを貼らない、「ダメ出し」よりも積極的に「ヨイ出し」をする、他者の言葉や態度を「受け取る/受け取らない」は選択できると伝える、達成までに細かく「足場」を設定し、長い時間をかけるといったポイントをぜひ実行してみてください。
「敏感っ子を育てるママの不安がなくなる本」、『敏感っ子を育てるママの不安がなくなる本 「立ち直る力」育成編』では今回ご紹介した敏感っ子との関わり方・子育てのポイントを他にもたくさん紹介しています。気になる方はぜひ読んでみてください。
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