「小学校の先生の叱責(しっせき)でショックを受け、子どもが登校できなくなった」という岐阜県内の保護者からの声が、岐阜新聞社の「あなた発! トクダネ取材班」に複数寄せられている。その一つを取材すると、学校側は不登校の要因は教諭の叱責ではないと否定。こうした子どもと学校の間の認識のずれは全国であると専門家は指摘する。「ずれがあることに教職員が気付いていない」という。学校で何があったのか。
「息子が学校に行けないのは、敏感な性格だからだと思っていた」。長男が岐阜市内の公立小学校の低学年クラスに通っていた夫婦は話す。長男は昨年11月から学校に通わなくなった。
「何があったの?」。そう聞いても本人は泣くばかり。2カ月たってようやく本心を明かした。任されたばかりの係活動で失敗をした際に担任の教諭にきつく叱られたという。「先生が怖い。初めてのことで分からなかったのに、あんなに怒るなんておかしい」と打ち明けた。
長男のクラスは二十数人いたが、他にも2人登校拒否になった。担任の教諭に直接叱責されたり、他の児童が叱られるところを見たりしたことがきっかけになったという。今春、2人は登校するようになったが長男は今も自宅で過ごす。「教諭の厳しい叱責でクラスの1割が登校拒否になった」。このクラスの複数の保護者はそう捉える。
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学校側の認識は異なる。本紙の取材に当時の校長は3人が学校に来られなくなった要因は「教諭の指導だけではないと聞いている」と回答。「いずれも必要な場面で適切な指導が行われている。しかし、中には、子どもにうまく伝わらなかったこともあり、その点は教諭とも話をした」と述べた。
一方、岐阜市教育委員会は不適切な指導があったとする。「度が過ぎているだろうと思われるから、教諭を指導してほしいと校長に伝えていた」と担当者は回答。ただ、市教委も不登校の要因は複合的で特定は難しいという。
学校関係者によると、この教諭は指導は厳しいが、児童の学習の達成度が高いとの評価がある。「子どもが成長できた」と感謝する保護者もいる。本紙は学校関係者を通してこの教諭に見解を求めたが、具体的な回答はなかった。教諭は今春から別のクラスの担任をしている。
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教員の叱責をきっかけに登校できなくなったという声は、他の学校の保護者からも挙がる。「担任の先生に、子どもと向き合う余裕がないと感じた」。県内の40代女性は小学生の長女から学校であったことを聞き、あぜんとした。
教室で教師が児童の胸ぐらをつかんで黒板の前に引っ張り出したという。「全員挙手」というルールなのに、手を挙げる様子がなかったから、という理由で。その場面を見ていた長女は数日間学校に行けなくなった。
◆専門家「子どもの言葉に耳傾けて」
子どもと教諭との関係がきっかけで不登校になるケースは表面化しにくいという。
2019年度の文部科学省の調査によると、小学生の不登校の原因が「教職員との関係」というのは2・4%だった。しかしこの調査は教職員が回答したもの。不登校の児童生徒本人の認識とは開きがあると、名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は指摘する。
06年度に不登校の中学3年生だった人を対象に、14年度に文科省が行った調査がある。それによると、不登校になった要因を「教職員との関係」と挙げた回答は26%になった。06年度に教職員が回答した調査とは16倍の開きがあった。
なぜ、こうしたずれが生まれるのか。二つの調査を比較分析した内田准教授は「子どもは全く違う認識を持っているということに、教職員が気が付いていない」と話す。一般的に子どもは自分の気持ちを表現することが不得手だ。「まずは児童の言葉に耳を傾け、本人が何を感じたのかをフラットに受け止めなければならない」と指摘する。
◆第三者の事実調査が必要
NPO法人学校安全ネットワークの喜多明人代表(早稲田大名誉教授) 過剰な叱責、指導の「行き過ぎ」はハラスメントであり、規制しなければならない。まずはスクールソーシャルワーカーなど第三者による事実調査が必要だ。
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