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Monday, August 30, 2021

敏感過ぎて学校がつらいHSCの子ら 夏休み明け、親はどうサポートすべきか - 時事通信ニュース

2021年08月31日08時00分

【表】HSCの四つの判断軸「DOES」。すべてに当てはまればHSCで、一つでも当てはまらなければHSCではない

【表】HSCの四つの判断軸「DOES」。すべてに当てはまればHSCで、一つでも当てはまらなければHSCではない

 きょうは多くの地域で夏休み最終日。学校が始まることを考え、憂鬱(ゆううつ)な気持ちになる子どもが増えるのが、この時期だ。学校生活がつらくなる要因の一つに、「HSC」への無理解によるものがあるのをご存じだろうか。HSCは「Highly Sensitive Child」の略で、人一倍刺激に敏感な子どものこと。実は、子どもの5人に1人がHSCだとされるが、学校現場での認知やサポートはほとんど進んでいない。豊かな感受性を持つからこそ「学校がつらい」「行きたくない」と苦しむHSCを、親はどのようにサポートすべきなのか。千葉市でフリースクールを運営するとともに、公認心理師としてHSCのカウンセリングや学校関係者向けの啓発活動などに取り組んでいるNPO法人「千葉こども家庭支援センター」の杉本景子理事長に話を聞いた。
 ―そもそもHSCとはどのような存在なのでしょうか?
 「思慮深く、人の気持ちや刺激に敏感な気質の子ども」のことです。1996年に米国の心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱しました。DOESという四つの判断軸(表参照)にすべて当てはまる子どもがHSCです。全体の20%ほどがこの基準に該当するとされ、30人学級なら6人はHSCだということになります。
 具体的な学校生活の困りごととしては、大きな声で怒鳴る先生が怖い、他人が叱られているのを見るのがつらい、先生の言うことをきかない子どもを見て不安になる、他人になかなかノーと言えない、(においや味が苦手で)給食の時間が怖い、クラスメート同士のいさかいを見るのがつらい、などの悩みを抱えることがあります。
 ―敏感さは、成長するにつれ、変化することはあるのでしょうか?
 いいえ。HSCの気質は、後天的なものではなく、生まれ持ったものです。大人になっても変わることはなく、HSCは成長すると「HSP=Highly Sensitive Person」になります。気質なので、疾病や障害でもなく、医師が診断したり、治療したりするものでもありません。ましてや、親の育て方が悪くてなるものでもありません。
 ―そうした気質がゆえに、HSCは不登校になったり、生きづらさを感じたりせざるを得ないと…。
 それは正確ではありません。確かにHSCは、他の子どもには何ともない刺激でも、積み重なると不安になったり疲弊したりします。外向的で積極的な子どもを評価しがちな学校では、「消極的」「打たれ弱い」と受け止められることもあります。
 しかし、HSCは、他人の心情にこまやかに配慮したり、身の回りの変化や危険にいち早く気付いたりすることができます。HSCの気質は、決して短所なのではなく、長所なのです。力を十分に発揮できる環境があれば、子どもたちの集団の中でリーダー役を務めて大活躍することもできます。反射的に他者を傷つけるような言葉を書き込む人がいるネット社会でも、誰に言われるでもなくモラルを働かせ、慎重かつ適切に振る舞うことができます。弱く、人生を切り開く力に欠けているわけでは決してなく、むしろ、正義感にあふれ、世の中の理不尽に正面から向き合う「強さ」を備えた存在なのです。
 ―HSCが力を発揮できる環境とは、具体的にどういったものなのでしょうか?
 温かく、皆で助け合うような雰囲気のある環境です。例えば、クラスの誰かが忘れ物をしたとします。先生が「また忘れたのか」と大声で叱ったり、子ども同士もクスクスと笑ったりして他人の失敗をバカにするような雰囲気だと、HSCは心を痛めます。そして、手助けできない自分を責めて絶望します。このような環境では、HSCは常に緊張を強いられ、普段できることもできなくなることがあります。
 一方で、先生が「誰にでもあることだから大丈夫」と声を掛け、周囲の子どもも「(忘れたものを)一緒に使おう」とフォローするような雰囲気だと、HSCは自分が助けられたような気持ちになります。そうした環境では、持ち前のこまやかな気配りや他者への共感性を発揮できるので、周囲からの人望を集めながら、伸び伸びと成長していくことができます。
 ―HSCが学校に行きたくないと言い出したときに、親が気を付けるべきことは何ですか?
 まず、親自身が、心のゆとりを保つことを心掛け、これまで通りできるだけ穏やかに過ごすことが大事です。私の元には、子どもの不登校に深く悩み、必死の形相で駆け込んでくる保護者の方が訪れます。気持ちは分かるのですが、私は「まず見詰めるべきは、子どもよりご自身のこと。お子さんは疲れ切った親を見て、自分を責めて苦しんでいるかもしれません」と伝えます。HSCは、親の心情や気持ちの変化をよく察します。自分のせいで親が苦しんでいること自体、HSCには強いプレッシャーになります。まず、子どもの気持ちを冷静に受け止め、なぜ学校に行きたくないのかを見極めることが大事です。
 ―HSCにプレッシャーはよくないということですね。
 はい。HSCにプレッシャー(過度な緊張感)は厳禁です。理解の欠如から、HSCに掛けるべきものとは正反対の言葉を掛け続けているというケースもよくあります。例えば、非HSCの子どもには「早くしなさい」と声を掛ければ、早く物事を終えられることもあります。しかし、HSCはせかされると余計に慌ててしまうので、「急がなくてもいいよ」と伝えた方が、結果的にはうまくいきます。HSCには、圧を強めるのではなく、弱める方がいいのです。これは不登校だけでなく、HSCへの関わり全般に言えることです。
 カウンセリングでこうしたアドバイスをすると、保護者から「甘やかすようで、成長できるか不安」「親戚から過保護だと指摘される」と言われることもあります。しかし、HSCの場合、負荷がかかると失敗しやすく、自信を失ってしまうため、いわゆる「スパルタ教育」は絶対にNGです。成長のためには、成功体験を重ねられるようサポートする方がいいのです。
 ―学校に行きたくない要因が、「怒る先生が怖い」など、学校に原因があることが分かった場合は、どうしたらいいのでしょうか。
 HSCの不登校の要因として、「先生が怖い」というケースは非常に多くあります。HSCは、自分が怒られていなくても、誰かが大声で怒られているのを見ているだけで緊張し、実力が発揮できなくなります。怒鳴る先生が直接の担任でなくても、近くにいるだけで学校がつらいと感じるようになることもあります。ですので、これは、親が学校にHSCという存在がいるということを伝え、相談するのがよいでしょう。
 ―具体的に、どんなふうに学校に相談するとよいですか?
 私が保護者から実際に同じような相談を受けた際に強調しているのは、やはり、子どものプレッシャーにならないように学校に相談することです。
 「うちの子が怖がっているのでやめてください」というような言い方は、子どもが矢面に立つので、HSCに大きな負荷がかかり、余計に学校に行きづらくなります。また、親が「先生がおかしい」などと学校側の責任を追及するような言い方も、和を重んじるHSCにとっては「自分のせいでみんなに迷惑を掛けている」という負担になります。どのような相談の仕方ならいいか子どもに希望を聞いて、できるだけプレッシャーがかからないように配慮していただきたいと思います。
 ―学校や先生に、HSCという存在をなかなか理解してもらえないという保護者には、どうアドバイスしますか?
 確かに、なかなか理解してもらえないケースも少なからず存在します。しかし、HSC=HSPは、5人に1人の割合で存在します。これは、学校の先生方にも当てはまります。私は、教育委員会などで講演した際に先生方にアンケートをとりますが、その結果を見ても、やはり5人に1人くらいの割合でHSPがいるということを感じます。
 ですから、学校にはきっとHSCの感覚を理解できる先生がいるはずです。HSCは、たとえ担任でなかったとしても、誰か1人でも自分のことを理解してくれる先生がいるだけで、それを心のよりどころにして学校に通えることもあります。諦めずに探してみてほしいと思います。
 HSCは、まだまだ学校現場で知られておらず、学校や先生にどう伝えればいいのか悩む保護者の方は少なくありません。そうした現状への一助になればと、このたび「一生幸せなHSCの育て方-『気が付き過ぎる』子どもの日常・学校生活の『悩み』と『伸ばし方』を理解する」(時事通信社から9月刊行)という本を書きました。HSCは、何かを変える必要はなく、そのまま伸ばせばいいこと、社会全体の幸福度を上げる素晴らしい存在でもあることを、ぜひ知ってもらいたいと願っています。

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