安全資産とされる金の国際相場が揺れ動いている。景気の浮き沈みとは逆の値動きをすることが多い金は、コロナ禍の広がりを受けて2020年7月に過去最高値を更新したが、その後は世界経済の復調を背景に総じて軟調に推移。足元では新型コロナウイルス変異株の感染拡大を受けて底堅さを見せる一方、米国が金融緩和策の出口戦略を探る中では上値が重い。強弱材料が交錯する中、世界経済の動きに敏感な金相場の展開を探る。(田中明夫)
利上げなお慎重姿勢 市場と対話続け、投資家の動揺防ぐ
希少価値が高く換金性に優れる金は、発行体の信用力に依存しない「無国籍通貨」とも呼ばれ、リスク分散目的で資金の一部を金に振り向ける投資家は少なくない。金利を生まない弱点はあるが、景気悪化時などの低金利環境では相対的に投資魅力が増す。このためドル建て金相場は、物価上昇率を控除した米国実質金利との逆相関性が強い。
新型コロナ感染が広がった20年には、同年3月に米連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利政策を導入したのを足掛かりに金相場は騰勢を強めた。同年7月には約9年ぶりに史上最高値を更新して1トロイオンス=2000ドルを超え、同年8月に年初比で約4割高となる同2100ドル台をつけた。
20年秋以降は主要国景気の復調や新型コロナワクチンへの期待を背景に、取引量が多い米国債10年物の利回りから期待インフレ率を控除した実質金利が底打ちして金相場は軟化。21年3月には同1600ドル台まで下落したが、足元では新型コロナ変異株の感染拡大を警戒して実質金利が過去最低となるマイナス1・1%台まで低下し、金は同1800ドル台に持ち直して底堅さがある。
ただ、上値は重くなり始めている。米国では消費が急回復する一方、手厚い失業給付を背景とした雇用回復の鈍さや半導体不足などの供給制約を受けて物価が急騰。利上げの前倒し観測が浮上して金相場を圧迫している。
米連邦公開市場委員会(FOMC)は6月の会合で、23年に0・25%の利上げを2回行うとするメンバー予想の中央値を発表。3月の会合では24年以降としていた利上げの前倒しを示唆した。市中では、現行の月800億ドル規模の米国債購入といった量的緩和の縮小は、先行して22年初めに開始されるとの見方も多く、長期金利の上昇圧力がくすぶる。
一方、パウエルFRB議長は直近の会見で、量的緩和縮小の検討を進める意向を示したが、供給制約を背景とした物価高騰は一時的との見方を維持し、「利上げは議論するタイミングではない」と慎重姿勢もにじませた。危機対応の出口を急いで投資家の動揺を招かないよう巧みに市場との対話を続けており、「金相場は上にも下にも動きにくく、足元の1800ドル前後の水準が当面続きやすい」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員)とみられている。
08年のリーマン・ショック時の出口対応では、13年に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を突如示唆して長期金利が水準を切り上げ、金は軟調に推移した。今回は慎重に出口を探っていることが金相場の方向感を出にくくしている。
来年以降、下押し圧力強まる ワクチン進展、利上げ近づく
22年以降は、金相場への下押し圧力が強まる展開となり得る。新型コロナワクチン接種の進展に伴い世界景気の回復が進めば、米国では量的緩和縮小の開始が見込まれるほか、利上げ開始のタイミングも近づく。
足元では、新型コロナ変異株の感染拡大による経済不安が長期金利の低下も招いて金相場を支えているが、「22年は金融緩和の縮小の影響を受けやすくなり相場は圧迫される」(楽天証券の吉田哲コモディティアナリスト)との見方がある。
ただ、米国の“双子の赤字”を背景としたドル安がドル建て金の割安感を強めて、金相場の下支えとなる展開も想定される。米国では消費回復に伴う輸入増で経常赤字が拡大し、外貨需要が増加している。また、コロナ禍対応での巨額財政出動に加え、バイデン政権のインフラ投資などによる多額の支出が財政赤字の膨張に拍車をかけて、ドルの信認が揺らぐ可能性もある。
国際通貨基金(IMF)の4月公表統計によれば、21年の米国の国内総生産(GDP)比の経常収支はマイナス3・9%、財政収支はマイナス15%と大幅な赤字となる見込み。ドイツのそれぞれプラス7・6%、マイナス5・5%、日本のプラス3・6%、マイナス9・4%などと比べ突出している。
米国経済は21年に入り、急激な景気回復を遂げて早くも経済成長の鈍化懸念が出ていることに加え、「双子の赤字を抱えているのでドル相場は押し下げられる」(クレディ・スイス銀行香港支店アジア太平洋地域チーフ・インベストメント・オフィサーのジョン・ウッズ氏)と見る向きもある。
22年は米国の利上げ観測が金相場の弱材料となる一方、「米国の財政赤字が意識されて、ドル安が相場の支えとなり高止まりしやすい展開になる」(芥田氏)との指摘もある。
中銀、大幅買い越し リスク分散需要、根強く
景気の悪化時に価格が上昇することの多い金は、多くの中央銀行が資産のリスク分散を図るため外貨準備の一部として金を保有している。特に、経済の不安定な新興国の中銀ではリスク回避ニーズが根強く、足元でも金を買い増す動きがある。
金の国際調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシルによれば、21年4―6月の中銀など公的機関の金の買越量は199・9トンと前年同期比で3・1倍となった。タイやブラジル、インドの購入が顕著だった。
公的機関はリーマン・ショック後の10年以降、金を買い越してきたが、コロナ禍で経済不安が高まった20年は金の購入を控える中銀が目立った。だが、21年に入り再び買い増す勢いが戻っているほか、換金して対外債務の支払いに充当する動きもあり、「コロナ禍を通じて金のリスク分散効果や高い流動性といった価値が再認識された」(森田アソシエイツの森田隆大代表)との指摘がある。
金相場の上昇余地は徐々に限定される展開があり得るが、コロナ禍などに伴う経済の不確実性は継続しており、金の保有ニーズは根強く残りそうだ。
日刊工業新聞2021年8月2日
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