民主主義と権威主義の対立は続く。世界経済の分断が進み、インフレ率が上昇する一方、社会保障や安全保障のコストが上昇し、財政は悪化するだろう。こうした動きが長期の投資戦略に与える変化を検証する。(クレディ・スイス証券株式会社 プライベート・バンキング チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパン〈日本最高投資責任者〉 松本聡一郎)
民主主義と権威主義の対立は
インフレと財政悪化をもたらす
世界は今「大いなる転換」に直面している。
クレディ・スイスが2022年の投資展望で訴えているテーマである。大きなフレームワークが変わるときといえば、過剰な楽観を生み出したようなケースもあれば、反対に不安な気持ちが先行しリスクに敏感な傾向が強まるケースもあるだろう。今回は、どうやら後者のケースのようだ。
COVID-19 のパンデミックは、経済活動をフリーズさせ、需要急減によるデフレショックをもたらした。この危機に、主要国政府は金融政策と財政政策を総動員してデフレ化を防ぎ、経済活動再開にこぎつけるまで経済を下支えした。
この結果、個人や企業のバランスシートは、金融緩和による低金利の恩恵で可処分所得に占める債務返済額の割合が過去数十年で最も低い水準まで低下した。また、ロックダウンなどの行動制限により消費機会が減少したことに加え、財政政策による支援拡大により手持ちの現金は一層積み上がってきた。
この影響で景気回復初期段階では通常は想定しないような大きな需要が生み出された。一方で、サプライチェーン(供給網)の回復は感染再拡大もあり、ゆっくりとしたペースで進んでいる。
ロシアのウクライナ侵攻を終わらせようと、G7中心の西側諸国がロシアへ経済制裁で圧力をかけている。この経済制裁が強化され長期化していくと、グローバル化で進んだ経済の相互依存体制がもたらすリスクが顕在化してくる。
国家間に民主主義と権威主義という価値観の違いがあると、両者の間でいったん大きな対立が生じた場合、収束には時間が必要となる。
法の支配や民主主義という同じ価値観を共有するG7を中心とした西側諸国のロシアへの経済制裁が長期化していくと、反対に権威主義のように異なる価値観を共有するグループでの経済的な連携強化を生み出していく可能性がある。安全保障面の緊張激化に加え、経済制裁長期化に後押しされた相互依存体制の見直しは、これから世界の分断をより際立たせていくだろう。
世界経済は、バランスを失いかけているように見える。このことが物価の持続的上昇への懸念を招くとともに、財政を悪化させていくだろう。
人口動態から予見されている労働人口減少による労働需給ひっ迫賃金上昇圧力や高齢化による社会保障コスト増加に加えて、持続可能な社会への転換に必要なコストや急速な地政学リスク拡大への警戒による安全保障コストの増加が新たな負担として大きくのしかかってきている。
こうした動きは長期の投資戦略にどのような変化をもたらすのか。
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