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Wednesday, October 26, 2022

【プレビュー】「板谷波山の陶芸―近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯―」泉屋博古館東京で11月3日から - 読売新聞社

端正で格調高い作品を数多く手がけ、理想の作品づくりのためには一切の妥協を許さなかった近代陶芸の巨匠、板谷波山。

波山の生誕150年を迎える本年、泉屋博古館東京で「生誕150年記念 板谷波山の陶芸―近代陶芸の巨匠、その麗しき作品と生涯―」が11月3日(木・祝)から12月18日(日)まで開催されます。

序章:ようこそ、波山芸術の世界へ

波山の陶芸は、東洋の古陶磁がもつ洗練された造形を骨格としながら、19世紀末の欧米のアール・ヌーヴォースタイル、つまり優雅で官能的な装飾性を併せ持つところに特徴があります。

東京美術学校(現・東京藝術大学)の恩師・岡倉天心が創刊した雑誌『国華』には、「夫レ美ハ國ノ精華ナリ」という言葉が記されています。美しいものを愛おしみ、それを育んでいく精神にこそ、その国家の真髄があるという恩師の言葉を糧に、波山は全身全霊で陶芸の世界に対峙しました。

序章では、東西の工芸様式を見事に融合させた波山の代表作が並びます。

《彩磁蕗葉文大花瓶》1911年(明治44年)頃 廣澤美術館蔵
《彩磁更紗花鳥文花瓶》1919年(大正8年)頃 泉屋博古館東京蔵

第Ⅰ章 「波山」へのみちのり

茨城県下館の富裕町人の家に生まれた波山。文人趣味、茶道の嗜みもあった父・増太郎の影響により、美を愛する心を持ち、幼い頃からやきものへの関心も抱いていたと想像されます。

明治22年、開校して間もない東京美術学校に入学。岡倉天心のもと東京美術学校で芸術家としての基礎を築きます。その後、工芸の街・金沢にある石川県工業学校(県工)に奉職し、デザインや窯業材料の研究、ロクロ成形や窯焼成など、土にまみれる7年間を過ごしました。

このように、波山は近代日本の「美術」と「工業」の最高峰に連なる環境で鍛えられ、次世代陶芸界の牽引者としての歩を進めていくこととなりました。

第Ⅰ章では、東京美術学校の卒業制作として作った木彫作品《元禄美人》など、陶芸家「波山」を名乗る以前の貴重な作品も展示されます。

《彩磁菊花図額皿》1911年(明治44年)しもだて美術館蔵

第Ⅱ章 ジャパニーズ・アール・ヌーヴォー

ジャポニスムブームに陰りが見え、日本の陶磁器輸出が斜陽期にさしかかった19世紀後期。逆境の下、波山は果敢に陶芸家として歩み始めました。

本格的な高火度焼成の窯を個人で東京・田端に構え、磁器焼成に挑みます。絵付けだけではなく、素地も自らつくり、釉薬や顔料の調合も吟味。西欧で流行したアール・ヌーヴォースタイルの意匠研究と、西欧渡来の釉や顔料の実用化にも熱心に取り組みました。

《彩磁金魚文花瓶》1911年(明治44年)頃 筑西市(神林コレクション)蔵

波山はそれまでの陶工の常識を破り、日本陶芸界のアヴァンギャルドとして、造形や意匠の革新者として、華々しくデビュー。しかし、それは貧困との果てしない戦いの始まりでした。薪窯による焼成のリスクは大きく、製品の歩留ぶどまり(※)も芳しくはなかったのです。

※原料や素材の使用量に対する、完成品の割合

第Ⅲ章 至高の美を求めて

敏感な色彩感覚をもっていた波山。彼の世界観は、釉の下に絵付けする「釉下彩」(下絵)で表現されています。さらに、この「彩磁」から、薄絹を被せたようなマット釉「葆光彩」へと表現の幅を広げていきました。

重要文化財《葆光彩磁珍果文花瓶ほこうさいじちんかもんかびん》は大正6年(1917年)、波山芸術を愛した住友春翠によって購入され、泉屋博古館東京に継承された葆光彩磁の最高傑作です。

第Ⅲ章では、天性のカラリスト・波山による色彩表現の広がり、そして、波山の代名詞ともいえる「葆光彩」の美しさを存分に味わうことができるでしょう。

重要文化財《葆光彩磁珍果文花瓶》1917年(大正6年)泉屋博古館東京蔵
《葆光彩磁葵模様鉢》大正前期 個人蔵
《彩磁草花文花瓶》大正後期 廣澤美術館蔵
《彩磁珍果文香炉[火舎北原千鹿]》1925年(大正14年)廣澤美術館蔵
《天目茶碗》1944年(昭和19年)筑西市(神林コレクション)蔵

本展は全国に巡回。泉屋博古館東京で開催された後、2023年1⽉2⽇(月・祝)から2⽉26⽇(⽇)まで、茨城県陶芸美術館で開催されます。

麗しい作品はもちろんのこと、波山が愛した故郷への思いや人となりを示す貴重な資料、試行錯誤の末に破却した陶片の数々も展示されます。「陶聖」と謳われた生涯に触れ、波山の人となりや、その美意識をより深く感じることが出来る展覧会です。

(読売新聞美術展ナビ編集班)

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