青森市の国立ハンセン病療養所松丘保養園に程近い新城小。新山久継教諭(43)は2019年度、担任だった6年生の総合学習でハンセン病を取り上げた。
「差別の歴史を『かわいそう』で終わらせず、尊厳を取り戻すために力強く生きる姿を学んでほしかった」と狙いを説明する。
保養園の入所者や川西健登園長(当時)ら職員が協力。児童59人は入所者を授業に招いたり園を訪れたりして、交流を重ねた。
「なんで自分の家のお墓に入れないの?」「園の周りが木で囲まれているのはなぜ?」。子どもたちは素朴な疑問を投げ掛け、多くの人が死後も帰郷を拒まれた強制隔離の実情や家族と離れて生きざるを得なかったことへの思いなどに耳を傾けた。
10月の学習発表会で、6年生は入所者との対話を基にした劇「ともに生きる」を披露。人権回復への道のりを子どもの視点で追った。川西園長の助言を受けて脚本を書いた新山教諭は「児童は交流を通し、先入観を持たずに自分事と受け止めた。学習を糧にいじめや偏見に敏感な人間に育ってほしい」と願う。
仙台市高森中の柴田義大教諭(30)は昨年度担当した3年生の公民の授業で、19年に国が敗訴したハンセン病家族訴訟を扱った。新聞記事や動画を使い、隔離政策や元患者や家族の声などを紹介。憲法の「個人の尊重」や「法の下の平等」と関連させ、人権を考える内容にした。
柴田教諭は「新型コロナウイルスの感染者差別との共通点を指摘する感想もあり、身近な問題と受け止めていた」と手応えを語る。
教育の場で啓発進める
同時代を生きる元患者や家族の姿を通し、偏見や差別について探究させる教育の実践は子どもたちの深い学びにつながっている。
01年の熊本地裁判決を受け、政府は元患者の名誉回復や偏見解消を目指す。02年度からは隔離政策や差別実態などをまとめた中学生向け啓発パンフレットを全国の学校に毎年配布。09年施行のハンセン病問題基本法でも正しい知識の普及啓発を講じるとした。
国は19年の元患者家族による国家賠償請求訴訟の敗訴を受けてパンフレットを改定し、家族への差別も詳しく説明した。ただ使い方は学校任せで、生徒が一律に学べる状況ではない。18年度の調査で「活用した」との回答は45・2%にとどまっている。
仙台市教委は19年1月、3年目の教員研修にハンセン病問題の講義を取り入れた。今年は6月にも実施する。講師は、学習会などの啓発に取り組む市民団体「ハンセン病問題を考える市民のつどい・みやぎ」(仙台市)の園部英俊共同代表(71)。「若い世代に教訓を伝えるには教員への啓発が一番の近道。理解を深め、人権教育に生かしてほしい」と期待する。
[ハンセン病問題基本法]国立療養所を隔離施設から社会に開かれた施設に転換するため、土地や設備を地方自治体や民間が利用できるようにした。元患者の社会復帰支援なども定める。元患者家族の名誉回復を図るため、2019年に改正された。
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