[ワシントン 30日 ロイター] - パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は30日、「早ければ12月にも」利上げペースを減速させる可能性があると述べた。一方、インフレとの戦いはまだ終わっておらず、最終的にどの程度の利上げが必要か、いつまで続くのかなど、重要な疑問が残っていると注意を促した。
ワシントンのシンクタンク、ブルッキングス研究所で講演した。
パウエル議長は「インフレ引き下げに十分な金利水準に近づくにつれ、利上げペースを緩やかにすることは理にかなっている。その時期は、早ければ12月米連邦公開市場委員会(FOMC)で訪れるかもしれない」としながらも、この問題は「インフレ抑制に向けてさらにどの程度の利上げが必要か、また、制約的な水準で政策を維持する必要がある期間はどの程度かという問題に比べれば、はるかに重要性が低い」と指摘。インフレ抑制に向けてまだやるべきことが残っていると強調した。
ただ、FRBはすでに「かなり積極的な」利上げを行っているとして、インフレの早期鎮静化のためだけに一段の大幅利上げで経済を破綻させることはしないと言明。JPモルガンのエコノミストから、利上げでは「衝撃と畏怖」のアプローチを取るのかとの質問を受けた際には「インフレを退治するかもしれないが、非常に高い人的コストが伴う」と回答した。
議長は特に労働力の供給において長期的な変化が進行しているとみられ、FRBの制約的な政策による効果が早期に表れずインフレが長期化し、高水準の金利環境も長引くという状況を示唆している可能性があると指摘。
その上で「われわれは経済を破綻させて、その後に後始末をしようとはしない」と述べ、政策当局者は早期の利下げを望んでいないため過度の引き締めを避け、利上げペースを減速させて時間と共にインフレを押し下げるのに適切な金利水準を探っていくとした。
失業率の急激な上昇を招くことなくインフレ率を押し下げ、経済の軟着陸を達成する可能性は依然としてあると主張した。
現時点では労働力の供給は回復しないと想定しておく必要があるとの考えを示し「インフレ率を2%に戻すために労働市場のバランス回復に向けた必要な措置を取らなければならない。失業を増やすのではなく、雇用の伸びを抑制することによってだ」と語った。
<長い道のり>
ターミナルレート(利上げの最終到達点)の推測は示さなかったが、9月の政策金利見通し(ドットチャート)で示した4.6%より「やや高く」なる可能性が高いと述べた。
パウエル議長はインフレ抑制のため「しばらくの間、制限的な水準で政策を維持する必要がある」と述べ、景気減速に伴いFRBが来年から利下げに踏み切るとの市場の見方をけん制した。
来年のインフレ減速を示す指標もある中で「物価の安定を取り戻すには長い道のりがある。過去1年間の金融引き締めや成長率の鈍化にもかかわらず、インフレ率の鈍化に明確な進展は見られない。目標を完遂するまでこの方針を維持する」と表明した。
また、モノのインフレが緩和している一方で、住宅コストは来年まで上昇し続ける可能性が高く、サービスの主要価格指標も依然として高いほか、労働市場は逼迫している点を指摘。「経済活動の伸びは長期トレンドを大きく下回るまで鈍化している」ものの、インフレが減速するためにはこの基調が持続する必要があるとした。「モノの生産のボトルネックは緩和され、モノの価格インフレも緩和されているように見えるが、これも継続しなければならない」と述べた。
一方、来年後半には住宅サービスのインフレ率が下がり始めるとの見通しを示した。ただ、この日発表された10月の雇用動態調査(JOLTS)で示された失業者1人当たりの求人件数が1.7件というデータを挙げ「これまでのところ、労働需要はわずかな緩和の兆候しか見られない」と指摘。「いくつかの有望な進展は見られるが、われわれは物価の安定回復に向けた長い道のりを歩んでいる」と述べた。
また、FRBのバランスシート圧縮(QT)については、2019年のオーバーシュートとも捉えられるようなものではなく、経済に影響を及ぼさない範囲にとどめたいとの認識を示した。
パウエル議長の発言は、FRBの積極利上げで年初来大きな打撃を受けている株式・債券市場の上昇につながった。
S&P総合500種は3.09%高で引けた。金利見通しに敏感な米2年国債利回りは4.52%から4.37%程度に低下した。ドル指数も低下した。
フェデラルファンド(FF)金利先物市場では、12月FOMCで利上げペースを減速させるとの見方がさらに優勢となった。
チェリーレーン・インベストメンツ(ニュージャージー州)のリック・メクラー氏は、現在のような速いペースで利上げを続けることはできないとは考えていたが、FRB議長から直接聞けたことが安心感につながり買い材料となったと指摘した。
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